展示会レポート「人とくるまのテクノロジー展 2009」
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展示会レポート「人とくるまのテクノロジー展 2009」
去る2009年5月20日(水)〜22日(金)の3日間,横浜のパシフィコ横浜において,「人とくるまのテクノロジー展 2009」(自動車技術展)が開催されました(主催:社団法人 自動車技術会)。
自動車業界を直撃した不況の影響が心配されたものの、現在好調なハイブリッド車およびその周辺技術、各種環境対応技術や次世代自動車を見据えた部品類の提案など、興味深い内容の展示が行われました。
ここではその中から,生産加工の新たなビジネスチャンスになりそうな部分をメインに,いくつか目についたものをご紹介します。
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【展示会の概要と見学の印象】
ハイブリッドカーを中心としたシステマチックな部品供給体制の整備を
会場では,市場の牽引役と期待されるハイブリッドカーの最新技術が惜しげもなく紹介されたが,長い歴史の中で完成されてきた自動車のレイアウトに,最適な形でハイブリッド機構を組み込む技術は各社各様で,興味深い。またハイブリッド機構の影で目立たないが,そのベースとなるエンジンは,これまで以上に効率の向上が図られたもの。ハイブリッドで得られた高効率を、エンジンや駆動系で損失いてしては意味がないことから、これらにもさらなる高精度化・小型軽量化が図られていくことは間違いない。
また,こうした技術は今は日本の独壇場だが,今後は厳しい競争にさらされる可能性もあり,部品供給までが一体となった普及のための努力が必要となる。また自動車のあり方が変わる中で,必要とされる部品も大きく変わる。会期中行われた講演で,野村総合研究所・金子哲也氏が「今後はハイブリッドカー用部品の標準化、またそれらをシステマチックに供給していく体制づくりが急務」と語っていたのが印象的だった。
【ハイブリッド自動車】
ハイブリッドカー「プリウス」エンジン@
会場では,5月18日に発売開始された,3代目ハイブリッドカー「プリウス」の1.8リットル・エンジンが早くもカットモデルとして展示されていた。
主要ユニットの小型・軽量化を追求し,システム全体の90%以上が新開発されているというこのパワーユニットによって,10・15モードで38.0km/Lという世界最高レベルの燃費性能,2.4L並みの動力性能を実現。
エンジンとモータ・リダクションギアを組み合わせた「リダクション機構付のTHS II」や,同社初の「電動ウォーターポンプ」などの新機構がコンパクトに盛り込まれている。
トヨタ自動車
【ハイブリッド自動車】
ハイブリッドカー「プリウス」エンジンA
写真では,カットされた部分からリダクションギアの機構が見て取れる。
同社は「ハリアー」でもリダクションギア+ハイブリッドシステムが採用されているが,このリダクションギアとは遊星歯車による動力分割機構,つまり減速ギアのこと。これまでのプリウスのハイブリッドシステムは、モータの回転を減速しないで駆動軸に伝えていたため,高出力・小型の高回転型モータを使うことが困難だった。そこでモータと減速ギアを組み合わせることにより、強力な高回転型モータを使用することが可能になったという。
なお新型プリウスの排気量だが,エンジン走行が中心の高速走行時には車速が高くなるほどエンジン回転数が高くなり,これまでの1.5Lの出力特性では最小燃費率領域から外れた領域を使用することになるため,1.8Lとして回転数を低く抑えたという。
トヨタ自動車
【ハイブリッド自動車】
ハイブリッドカー「プリウス」電動ウォーターポンプ
後述するインサイトでもそうだが,プリウスではエンジン自体にも徹底して効率化が追求される。2ZR−FEをベースとした2ZR−FXEエンジンでは,「ローラロッカー化によるフリクション低減」「高効率・高タンブル吸気ポート」「点火プラグ細径化によるノッキング抑制」「高剛性化による振動低減」などがあるが、今回採用されたこの電動ウォーターポンプもそれを象徴する1つと言えるだろう。
ベルト駆動による最後のメカニカル駆動補機であったウォーターポンプは,この3代目プリウスから電動化された。これは駆動用ベルトによる損失を減少させることと,細かい流量制御が行えることが主な狙い。
トヨタ自動車
【ハイブリッド自動車】
ハイブリッドカー「インサイト」エンジン@
「手ごろなハイブリッドカー」を印象付け,販売好調なホンダの「インサイト」も、カットモデルを展示。「プリウス」がモータ単独での走行もこなすのに対し,こちらはあくまでもエンジン主体で,シンプルな「パラレル方式」。バルブ休止によるモータ単体走行も行われるが,限定的な場面(クリープ走行に近い低速走行時など)に限られる。
写真で見ると,フライホイールの代わりに、中央に見えるモータを組み合わせたようなシンプルな構成。右側は高効率CVTのユニット。モータの回転によってエンジン回転を補助することにより、車体に対してかなり小型の1.3リットルエンジンでも,1.5〜1.8Lクラスの車体に充分な出力・トルクを実現している。燃費は10・15モードで30km/L。
本田技研工業
【ハイブリッド自動車】
ハイブリッドカー「インサイト」エンジンA
エンジン機構部分のアップ。ハイブリッド機構に目が行きがちだが,インサイトのエンジンはフリクションの低減、部品軽量化技術、リーン領域の拡大など、軽量・コンパクトを追求した新設計の1.3リットルエンジンがベースとなる。さらにVTECとセンターインジェクションを組み合わせ、超リーンバーンで燃費低減を可能とするガソリン直噴技術も導入されるなど,エンジン自体が非常に高効率なものだといえる。
またハイブリッドシステム自体の小型軽量化がメリットのインサイトでは,モータも極薄型で,エンジン寸法をほとんど変えずに搭載することが可能だ。
各走行シーンにおいて行われる精密なエネルギーマネジメントを活かすため、「カムジャーナルの鏡面化」「高着火性両針プラグ」「ピストンリング低張力化」「ピストンパターンコーティング」などが施されている。
本田技研工業
【ハイブリッド自動車】
ハイブリッドカー「インサイト」バッテリー
インサイトのバッテリー部分。トランクルームのフロア下にすっぽり収まる、コンパクトな印象を受けた。
同社プレスリリースによれば,「高出力Ni-MH(ニッケル水素)バッテリーは、モジュールあたりの出力と耐久性を約30%向上させることで、モジュール本数を従来の11本から7本へ削減。モーターに必要な出力と容量を確保しながら、従来比で約31%の小型化と約35%の軽量化を実現」しているという。
本田技研工業
【ハイブリッド自動車】
ハイブリッドバス用ディーゼルエンジン
日野のブースでは,全国で300台が稼動しているという,「ハイブリッドノンステップバス」のエンジンが展示されていた。こちらのエンジンも,ホンダの「インサイト」と同系統の、フライホイール部にモーターのロータ・ステータを組み合わせたような構造の、エンジン主体のハイブリッドである。
同社では、ストップ&ゴーの頻繁に行われる路線バスの特性に注目し、このハイブリッド機構で回生エネルギーを積極的に取り込み、効果的に利用していくシステムを提案している。
日野自動車
【次世代自動車のための新しい部品】
超電導モータ
派手な実験で会場内の注目を集めていたのが,住友電工の「自動車用超電導モータ」。写真上部に2つ並ぶタンクに液体窒素を注入することで,損失(および発熱)ゼロと、銅の200倍の電流を流すことができる高電流密度を実現している。
すでに乗用車での走行テストにて、85km/hで2時間走行という成果を実証済みだが、今後はコストダウンや安全性を評価しつつ、10年以内には実用化したい考え。トラックや建設機械などの、より大きなものへの搭載でより効果を発揮するため、そうした展開も視野に入れ研究を行っているという。
住友電気工業
【次世代自動車のための新しい部品】
FR車用ハイブリッドミッション
レクサスGS450hやトヨタ・クラウンハイブリッドに搭載されている、FR車用の2モータハイブリッドトランスミッション。駆動モータの出力軸に低速域用のローギヤ、および高速域用ハイギヤの2段の減速ギヤ比が選択可能なリダクションギヤ機構を組み合わせている。
トヨタ車のハイブリッドシステムは,動力分割の機構から,エンジン出力に合わせて相対的にハイブリッド用ユニットの出力も大きくする必要がある。しかしFR車のセンタートンネル内に大型の高出力モータを搭載するのは困難なことから、駆動モータの外径を小型化してトランスミッション内に内蔵、また2段変則式のリダクション機構と組み合わせることで、小型化のみならずモータの高効率作動領域もほぼ2倍に拡大している。このユニットだけで、プリウスのストロングハイブリッドとほぼ同等の機能を実現しているという。
アイシン・エィ・ダブリュ
【次世代自動車のための新しい部品】
水平対向エンジン用樹脂インテークマニホールド
樹脂製のインテークマニホールドやエンジンヘッドカバーを手がけるトヨタ紡織が、富士重工から最近受注したという水平対向エンジン用の樹脂インテークマニホールド。4気筒の「レガシィ」に採用される。ポートの一部(ファンネル部)を別部品化し、インジェクション成形品で内包しつつ、振動溶着工法で上下を接合していくものだが、水平対向エンジンは接合部が長いため均一な接合を行うことが課題であったという。樹脂への置き換えにより、これまでのアルミ鋳造部品に対して約60%の軽量化を実現している。
トヨタ紡織
【次世代自動車のための新しい部品】
アイドルストップ用ワンウェイクラッチ
環境に配慮して行われるアイドリングストップ。今では停車時に自動で行われる車もあるが,セルやバッテリーの使用頻度が上がることにより,ブラシやセルモータ周辺部の損耗・劣化が激しくなるという一面もある。そのため、セルではなく直噴で燃料を爆発させ,ピストンを押し下げて始動させる機構なども開発されている。
NSKは,こうしたアイドリングストップ車に使われる機構部品として,セルの噛み合い部の損耗を防ぐワンウェイクラッチを開発した。これによりセルの出し入れと、そのつど噛み合わせる状況をなくし,確実なエンジン始動と部品損耗を防いでいる。
このように、次世代の自動車に対するさまざまな要求が,新たな機構部品を生み出している一つの例といえるだろう。
日本精工
【次世代自動車のための新しい部品】
リチウムイオン電池用ケース
鋼鉄の5倍という強さを持つ、パラ系アラミド繊維「ケブラーR」による強化熱可塑性樹脂コンポジットを利用した、リチウムイオン電池のケース。アルミ合金のみならず、CFRPも凌ぐ低比重でありながら、衝突物の貫通防止に優れ、また電気絶縁性も高い。
熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂に用いているため、樹脂の硬化に必要な時間はごく短時間で、成形加工に要する時間を大幅に短縮できる。
東レ・デュポン
【次世代自動車のための新しい部品】
燃料電池自動車用 高圧ガスバルブ
燃料電池自動車の高圧水素タンクに取り付けられるガスバルブで,減圧弁と複合バルブからなるシステム。同社従来比で2倍の70MPaの高圧化を実現しつつ,重量は40%減と大幅に軽量化している。
減圧弁は調整圧力値0.8〜2.0MPa。気密性はともに0.1cm3/min以下。
潟Wェイテクト
【次世代自動車のための新しい部品】
CFRP製ホイール
長年のレース経験で培った技術に基づいて,レース用技術をエコに活用する取り組みを行っている童夢は,車体軽量化のため、昨年に引き続いて車体のさまざまな部品をCFRP化していく提案を展示。
写真は、トヨタ自動車と共同開発を行った、4輪車用のカーボンコンポジットホイール。世界で初めてフルカーボン製でJWL基準適合品となった。また同社では,同じく二輪車用のCFRPホイールも展示していた。
鞄カ夢/鞄カ夢カーボンマジック
【次世代自動車のための新しい部品】
竹繊維植物由来ウレタン樹脂複合材
三菱自動車からは、カーボンニュートラルな各種グリーンプラスチックを内装材、またはシートなどさまざまな用途に使用する展示が見られた。写真は植物由来のウレタンを竹繊維で補強し,ドアパネルに使用した例。
竹繊維,ひまし油ポリオール、ヤシ油グリセリンを用いた植物由来ウレタン繊維を使用して内装品として成形されたもので、現在実用化に向け開発中。ボード・トリム、天井、シェルフガード、カーゴフロアボードなどが主な用途となる。
このほかにも、耐熱性PLA射出成形材、PLA系複合素材表皮植物由来ウレタンクッションなどが展示されていた。
三菱自動車工業
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